木下俊男  (PricewaterhouseCoopers LLP .・パートナー)

「グローバル化するマーケット、日本人である意味は?」

PricewaterhouseCoopers LLP
ジャパニーズ・プラクティス・ネットワーク全米統括パートナー

木下俊男氏
合併により世界最大の会計事務所となったプライスウォーターハウスクーパース。ボーダーレス化する企業の中での日本人の価値について聞いた。

(聞き手:本サイト発 行人 板越ジョージ(以下"I"))

適材適所の人材活用

I:プライスウォーターハウスクーパースのサービス内容を教えて下さい。

『サービスラインは7つあります。会計・監査・税務。これらは全くクラシカルで伝 統的なサービスです。それから、ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス、人 事関連コンサルティング、マネジメント・コンサルティング、そしてビジネス・アウ トソーシング・プロセスです』

I:その全てに日本人のスタッフがいるのですか?

『ヒューマン・リソース・グループだけは日本人はいません。というのも、日本人 で、ヒューマン・リソースを専門に教育を受けた人が殆どいないからです。それは、 日本でヒューマン・リソース・アドバイザリーというビジネスが成り立っていないの が原因なんですね。私のビジネスプランでは、今後これを日本に持っていきたいと考 えています』

I:具体的にはどのような事をするのですか?

『雇用者のベネフィット・プランを作ったり、アウトソーシングをどこにさせるかと か、どのような役職でやっていくか、職務内容の定義などのコンサルティングになり ます』

I:日本に持っていくと、今までの日本の人事は変わりますか?

『当然のことながら、今までのような人事政策ではやっていけません。人事部長だと か人事課長とかは、今までの過去の慣習のままで仕事をしています。そこに、例えば バンカーズ・トラストの人が突然パッと入ってくるのです。英語ができるとかできな いというレベルの問題ではなく、考え方が全然違うんです。それがカルチャーギャッ プとして出てきますから、ヒューマン・リソース・アドバイザリーは有望な分野だと 思います』

I:私の友人にヒューマン・リソースの専門家がいます。ジョージタウン大学を卒業して、大使館勤めをした後、シティバンクなどで、ずっと米国の人事を体験してきたんです。今は東京のプライスウォーターハウスクーパースで人事部長をやっています。ですから、今の日本の監査法人の中にヒューマン・リソース・アドバイザリーを手がけているところが少ないというのは意外ですね。

『昔のビッグ6と呼ばれる大手会計事務所もそうでしたが、日本の監査法人は今でも 会計士が全てをやろうとしているのです。法人の運営も会計士、人事も会計士、会計 も、もちろん会計士です。そんなに器用なわけないんですよ。だから人事は、人事の バックグラウンドを持った人がやるべきなんですよ』

I:そうですね。医療改革以来増えているホスピタル・ビジネスにしても、成功して いるところは、とりあえず院長はMDを持っていても、それ以外はアウトソーシングを 含めて専門家を使っていますね。

I:プライスウォーターハウスクーパース自体の人事政策について聞きたいのです が、日本人ならばどのような人を採用しますか?

『あたり前のことですけれど、良い人にきてもらいたいですよ。それは具体的にどう いうことかというと、能力的には日本語ができるだけでは私共のサービスは売れません。私共が日本人スタッフに求めるのは、アメリカ人と同レベルの能力を持っている ことです。日本語ができる、日本のビジネスを理解しているというのは単に付加価値でしかありません。それが私共が強調している点です。以前は私共の事務所でも日本 人スタッフの中に「自分は日本語ができるからアメリカ人と同じレベルだ」と誤解している人が沢山いました。私がアメリカにやって来た十数年前は、アメリカ人の中にも日本人はコンサルタントとしての能力が多少低くても、日本語ができるからいいだ ろうという考えの人が多くいました。しかし、それでは駄目だと私は言い続けてきた のです。実際にクライアントの立場からすると、日本語ができるだけではサービスに満足していただけないのです』

I:確かに他の業界でも、今や日本語が話せるとか、日本のビジネスを理解している というのは武器にならないですよね。

『そうです。そもそも日本人や日本の企業が、いつも我々は特殊なんだと思って生き てきたのが問題だったんです。アメリカに出てきても「日本のビジネスは特殊」、 「日本人は特殊」、「日本の会社は特殊」ということで「特殊性」を看板にしてきた んです。ところが、これだけ日本経済が打撃を受けた後に、どんな「特殊性」が残り ましたか?結局、「特殊性」でも何でもなかったのです。ただ、「特殊性」という看 板を背負って、「日本の企業を理解しないと日本とビジネスはできないよ」と言っトいただけなんです。今のようにグローバルな時代になると、特殊性は意味を無くし ワす。日本企業もヨーロッパやアメリカの企業と同じように、ストラテジーを立てて ビジネスを展開していかなければなりません。もはや日本人であることや、日本語が できることを看板にはできないのです』

I:それではプライスウォーターハウスクーパースのスタッフが、日本語以外にクラ イアントから求められる能力というのはどのようなものでしょうか?

『私共に頼まなくても、情報を収集したり、問題を解決したりということは、ある程 度はクライアント自身でできます。それではクライアントが私共に何を期待している かというと、私共はプロフェッショナルなサービスを提供するということです。日系 企業のクライアントは、アメリカでどうやって自分達のビジネスを展開するのがベス トなのか、どういうストラテジーが必要なのかという疑問に対する意見を模索してい るのです』
I:それはよく分かります。私も会社を運営しているので様々なことを調べるのです が、自分の理解は正しいのかなという疑問が残るんですよ。例えば、今ストックオプ ションについて勉強しているんですが、それを会計士の方に「自分はこういう風に理 解しているんだけど」と聞いて、それで大丈夫だと言われると安心しますね。

『そうでしょう。ディレクションは当然自分達で決めなければならないことなので す。ただ、そのディレクションが本当に正しいのか、例えばストックオプションを導 入したいという時に、それが正しいかどうかをちゃんと証拠づけてクライアントにア ドバイスしなければならないのです。私共のスタッフやこれから新しく入ってくる人 に期待しているのは、常にそういう訓練や勉強をしてもらいたいということです。資 格社会ですから、会計士の資格は必要です。しかし、単に私は会計士です、または日 本人です、というだけでは生きていけないのです。それだけ自然淘汰されてきている というか、マーケット環境が厳しくなっています』

I:なるほど。私達は直球は打てるけれど、変化球が来ると打てなくなるんですよ ね。だから変化球を打てるようになるにはプロのコーチが必要ですね。

『ただ、プロフェッショナルなコーチになるには、それなりの力が必要です。専門知 識を売っていかなければなりません。しかも表面的な専門知識ではなく、深い専門知 識を売っていかなければなりません。クライアント自身も、表面上のことは理解でき ます。例えばステイトメントが来たらプライスウォーターハウスクーパースの人間で なくても読めます。しかし、問題はこれをどのようにアプライするかであり、それを 私共が担うのです。そのために私共のスタッフが何をしなければならないかという と、まず、その会社のインダストリーを理解し、それに対する深い知識を取得するこ とです。それから、クライアントのビジネスとそこの人間を理解する必要もありま す。それをこなす能力を備え、きちんとやっていける人は、ウチの中でも昇進が早く なりますよ(笑)』


会計士の利用法とは

I:信用できる会計士の方の話しを聞くと安心できるし、視野も広がりますね。

『そうでしょう。もうひとつの会計士の使い方として、自分達の従業員に対して「会 計士がこんなことを言っている」とシナリオ作りをすれば、うまく会社をコントロー ルできます。よく日本企業の方に、「我々にお金を払っているんだから、その分利用 してください」と言うんです』

I:会計士を説得の材料にするというのは確かに効き目がありますね。

『現在、アウトソーシングの中でも注目を集めているのが内部監査人をアウトソーシ ングすることなんですよ。一般的に内部監査人は、自分の社長が上司だとか、自分は 内部の人間だという意識があって強いことが言えないのです。しかし、ウチのような 外部からアウトソーシングされている内部監査人は、その出向先の企業で、血も涙も ないことを言いますからね(笑)』

I:私の会社もアウトソーシング的なサービスを提供しているので感じるのですが、 日本人には本当の意味でのアウトソーシングはまだ理解されていないんじゃないです か?

『最近は、少しずつ理解してくれるようになりましたね。確かに3〜4年前まではアウ トソーシングというと、掃除とかゴミ回収とかやりたくない作業をやってくれる人と いうイメージがありました。私共が内部監査人をアウトソーシングしますと言って も、なかなか理解してもらえませんでした』

I:プロフェッショナルな仕事を外部に委託するという感覚がまだなく、しかも経験 も少ないから、そのサービスが発生する付加価値もわからない。日本人のアウトソー シングに対する考え方を変えないと、相互関係が構築できないのでクライアントの為 にもならないし、アウトソーシングする会社の為にもならないですよね。

『そうですね。内部監査人にしても、企業内部の人間では本来の業務ができにくいニいうのもありますが、今ある組織で大丈夫かということを、プロフェッショナルな m識と経験から判断するというのが大事なのです。そこにクライアントに対する付加 価値が生まれるし、そのような仕事をしなければ私共はお金をもらえないんです。だ から、しつこいようですが、私共のスタッフは毎日、知識と経験を磨き上げられる人 でなければならないのです』


 

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